
しかし、食品工場などの大規模事業者と、飲食店や喫茶店などの小規模事業者では求められる衛生管理の種類が違います。この記事では、HACCPの基本や制度化の対象者、衛生管理の内容について解説します。
HACCPってなに?
食品衛生法第51条により、飲食店や喫茶店を含む全ての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。[注1]食品衛生法第51条 厚生労働大臣は、営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置について、厚生労働省令で、次に掲げる事項に関する基準を定めるものとする。
引用元:食品衛生法
一 施設の内外の清潔保持、ねずみ及び昆虫の駆除その他一般的な衛生管理に関すること。
二 食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組に関すること
HACCPに沿った衛生管理とは、どのような衛生管理の手法を指すのでしょうか。HACCPのポイントや制度化の対象者・背景について解説します。
HACCPとは
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)とは、食品を消費者に届けるまでの工程の危害要因(食中毒や異物混入などの食品リスクのこと)を分析し、とくにリスクが大きい工程を重点的に管理する衛生管理の手法です。以下に厚生労働省の定義を引用します。[注2]HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
引用元:厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」
食品を摂取することで、人への健康被害を引き起こす可能性がある食品リスクのことを「危害要因」と呼びます。危害要因は、食中毒菌や腐敗微生物、寄生虫などの「生物的危害要因」、異物混入などの「物理的危害要因」、残留農薬や重金属汚染、カビ毒などの「化学的危害要因」の3種類に分けられます。食品を提供するまでの全ての工程を検証し、この3つの危害要因が存在しないか分析することを「危害要因分析(HA)」と呼んでいます。
また、HACCPに沿った衛生管理では、「重要管理点(CCP)」という考え方を採用しています。重要管理点とは、食品の危害要因がとくに大きく、食品事故の発生を防ぐために厳重な管理が求められる工程を指す言葉です。[注3]
特に厳重に管理する必要があり、かつ、危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防もしくは除去、または、それを許容できるレベルに低減するために必須な段階。必須管理点ともいう。
引用元:厚生労働省.「食品製造におけるHACCP入門のための手引書[容器包装詰加圧加熱殺菌食品編]」
重要管理点を設定し、科学的根拠に基づいた管理基準(CL)を決めて、重点的に衛生管理を行うことで安心安全に食品を提供することができます。従来の抜き取り検査と比べて、HACCPに沿った衛生管理では、全ての工程で食品リスクを除去または低減します。
そのため、食品事故をより効果的に予防できるだけでなく、万が一食品事故が発生した際の原因追求が容易なのもHACCPに沿った衛生管理のポイントです。[注2]
※HACCP方式と従来の製造方法の違いは 従来の抜取検査による衛生管理に比べ、より効果的に問題のある製品の出荷を未然に防ぐことが可能となるとともに、原因の追及を容易にすることが可能となるものです。
引用元:厚生労働省.「食品製造におけるHACCP入門のための手引書[容器包装詰加圧加熱殺菌食品編]」
制度化の対象者
食品衛生法の改正により、2021年6月から全ての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)を対象としてHACCPへの対応が制度化されました。[注2]
引用元:厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」
事業規模や事業内容を問わず、食品等事業者は衛生管理計画を作成し、HACCPに沿った衛生管理を実施する必要があります。しかし、食品等事業者の規模や従業員数によっては、厳格な衛生管理体制を構築するのが難しい場合があります。
また、長期間の常温保存が可能な食品を取り扱う事業者や、食品の容器包装のみを取り扱う事業者など、公衆衛生に与える影響が少ない事業内容もあります。そこで、厚生労働省は食品等事業者を「大規模事業者(と畜場、食鳥処理場も含む)」と「小規模な営業者等」の2つのグループに分け、それぞれの事業規模や事業内容に応じた衛生管理の実施を求めています。
なお、小規模な営業者等とは、以下の5つのいずれかに該当する事業者を指します。
引用元:厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」
●食品を製造し、又は加工する営業者であって、食品を製造し、又は加工する施設に併設され、又は隣接した店舗においてその施設で製造し、又は加工した食品の全部又は大部分を小売販売するもの
●飲食店営業又は喫茶店営業を行う者その他の食品を調理する営業者
●容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する営業者
●食品を分割して容器包装に入れ、又は容器包装で包み小売販売する営業者
●食品を製造し、加工し、貯蔵し、販売し、又は処理する営業を行う者のうち、食品等の取扱いに従事する者の数が50人未満である事業場
飲食店や喫茶店の場合、「小規模な営業者等」に該当するため、小規模事業者向けの衛生管理を実施する必要があります。具体的な対応内容については、後の項目で詳しく解説します。
HACCP制度化の背景
米国やカナダ、オーストラリア、EUなどの国は、日本に先駆けてHACCPに沿った衛生管理を導入してきました。[注4]引用元:日本食品衛生協会.「HACCP(HACCPの各国の導入状況)」
米国 ●1997年より、州を越えて取り引きされる水産食品、食肉・食鳥肉及びその加工品、飲料について、順次、HACCPによる衛生管理を義務付け
●また、2011年1月に成立した「食品安全強化法(FSMA)」は、米国内で消費される食品を製造、加工、包装、保管する全ての施設のFDAへの登録とその更新を義務付けており、また、対象施設においてHACCPの概念を取り入れた措置の計画・実行を義務付けているEU ●一次生産を除く全ての食品の生産、加工、流通事業者にHACCPの概念を取り入れた衛生管理を義務付け(2006年完全適用)
●なお、中小企業や地域における伝統的な製法等に対しては、HACCP要件の「柔軟性」(Flexibility)が認められているカナダ ●1992年より、水産食品、食肉、食肉製品について、順次、HACCPを義務付け オーストラリア ●1992年より、輸出向け乳及び乳製品、水産食品、食肉及び食肉製品について、順次、HACCPを義務付け
日本でもようやくHACCP制度化がスタートしたのは、食品業界のグローバル化により、今後HACCPベースでの食品衛生管理が必須になるケースが想定されたためです。
また、若者よりも高齢者の方が食中毒等の健康被害のリスクが大きいことから、高齢化社会の進展にともない、より食品安全意識を高めていく必要があることもHACCP制度化を後押ししました。
HACCP導入のメリット
HACCPの導入は、食品事業者にとってもメリットがあります。以下は厚生労働省のHACCP企画推進室が実施した、HACCP導入のメリットについてのアンケート調査です。[注5]引用元:厚生労働省.「HACCPの普及・導入支援のための実態調査結果」
社員の衛星管理に対する意識が向上した 78.2% 生産効率が上がった 9.0% ロス率が下がった 10.1% クレーム、事故が減少した 32.3% 製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった 37.7% HACCPを求める事業者(小売業者等)との取引が増えた 9.7% 社外に対して自社の衛生管理について根拠を持ってアピールできるようになった 43.1% 今のところ特にメリットは感じられない 4.7% その他 1.2%
HACCPの導入メリットとしてもっとも大きいのが、社員や従業員数の衛生意識の向上です。食品事故やお客様のクレームの減少や、食品事故が発生した場合の原因究明の迅速化などのメリットも期待できます。
HACCPに沿った衛生管理
HACCPに沿った衛生管理は、「大規模事業者(と畜場、食鳥処理場も含む)」と「小規模な営業者等」のどちらに該当するかによって区分が異なります。大規模事業者は「HACCPに基づく衛生管理(旧基準A)」、小規模事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(旧基準B)」の実施が必要です。ここでは、HACCPに沿った衛生管理の内容を事業者の区分ごとに解説します。
大規模事業者が行う衛生管理
食品工場などの大規模事業者の場合、「HACCPに基づく衛生管理」を実施する必要があります。[注2]引用元:厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」
対象事業者 衛生管理 実施内容 ・大規模事業者
・と畜場(と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者)
・食鳥処理場(認定小規模食鳥処理業者を除く食鳥処理業者)HACCPに基づく衛生管理
(食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組)コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行う
HACCPに基づく衛生管理のポイントは、コーデックス委員会が定めたHACCP7原則12手順を遵守し、衛生管理体制を構築しなければならない点です。
手順1から5ではHACCPに対応するための準備について、手順6から12(原則1から6)では衛生管理体制のあり方について定められています。[注3]
引用元:厚生労働省.「食品製造におけるHACCP入門のための手引書[容器包装詰加圧加熱殺菌食品編]」
手順1 HACCPチームの編成 手順2 製品説明書の作成 手順3 意図する用途および対象となる消費者の確認 手順4 製造工程一覧図の作成 手順5 製造工程一覧図の現場確認 手順6(原則1) 危害要因の分析
(食中毒菌、化学物質、危険異物など)手順7(原則2) 重要管理点の決定
(つけない、増やさない、殺菌するなどの工程手順)手順8(原則3) 管理基準の設定
(温度、時間、速度など)手順9(原則4) モニタリング方法の設定
(温度計、時計など)手順10(原則5) 改善措置の設定
(廃棄、再加熱など)手順11(原則6) 検証方法の設定
(記録、検査など)手順12(原則7) 記録と保存方法の設定
小規模事業者が行う衛生管理
一方、飲食店や喫茶店などの小規模事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の実施が必要です。HACCPの考え方を取り入れた衛生管理とは、各業界団体が作成した手引書に基づき、計画を立てて衛生管理を実施することを意味します。[注2]飲食店の場合は、公益社団法人日本食品衛生協会が作成した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」などを参照し、衛生管理を改善する必要があります。引用元:厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」
対象事業者 衛生管理 実施内容 小規模な営業者等 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
(取り扱う食品の特性等に応じた取組)各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う
違反による罰則はあるのか
HACCPに沿った衛生管理を実施しない場合、食品衛生法第51条2項および3項により、食品衛生法違反に問われる可能性があります。[注1]食品衛生法第51条2項
引用元:食品衛生法
② 営業者は、前項の規定により定められた基準に従い、厚生労働省令で定めるところにより公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければならない。
③ 都道府県知事等は、公衆衛生上必要な措置について、第一項の規定により定められた基準に反しない限り、条例で必要な規定を定めることができる。
食品衛生法には、HACCPを実施しなかった場合の罰則が直接記載されているわけではありません。しかし、都道府県知事が条例によって独自に罰則を定めることができるため、悪質な違反の場合は営業停止処分や営業許可証の更新停止、罰金・罰則などの処分が科される可能性があります。
HACCPを導入するために、まずは環境の整備が必要
HACCPを導入するためには、第1段階として一般衛生管理を行うために、食品を取り扱う環境の整備が必要になります。その上で、一般衛生管理を遵守する必要があります。食品の製造や梱包などに関わるすべての事業者が行わなければならない衛生管理のことです。
エレクターは、食品を取り扱う環境の整備をさまざまな器具・備品でサポートしています。シェルフでは、衛生管理4原則の中の2つの原則である「増やさない」「付けない」を重点的にサポートする樹脂製シェルフをおススメしています。
関連記事:HACCPの導入を実現するファーストステップ(厨房の衛生管理)
衛生管理には樹脂製シェルフが役に立つ!

飲食店や食品工場の衛生管理に、樹脂製で抗菌仕様の「樹脂製シェルフ」が役立ちます。
特長1. 洗える棚板マット
棚板マット部はフレームから簡単に取り外すことができ、洗浄が可能です。
特長2. 異物混入を防ぎます
棚板マットは樹脂製のため、スチール製の棚板などで発生するサビによる異物混入の心配がありません。
特長3. 抗菌加工で衛生的
エレクターで取り扱いの樹脂製シェルフにはマイクロバン抗菌加工が施されています。棚板マットだけではなく、フレームやポールにも製造工程で抗菌剤を含有しているので、抗菌加工が剥がれることはなく、いつまでも衛生的にお使いいただけます。
特長4. 床清掃も簡単
すべての樹脂製シェルフにキャスター ( またはドーリー ) を装着することが可能。シェルフに保管したものをそのまま運ぶ利便性はもちろん、床清掃の際にも簡単にシェルフを移動することができるので衛生的な状態を維持できます。
また、耐熱性や耐荷重性にも優れているため、一度導入したら長く使えるのも樹脂製シェルフのメリットです。HACCP対応に取り組む飲食店の方は、樹脂製シェルフの導入がおすすめです。
まとめ
HACCPは食品事故のリスクを除去または低減するための衛生管理の手法です。2021年6月より、原則として全ての食品等事業者にHACCPへの対応が制度化されました。エレクターでは、HACCPの運用に不可欠な環境の整備を多くの製品で支えています。保管棚には抗菌仕様の「樹脂製シェルフ」をご検討ください。[注1] e-Gov.「食品衛生法」.
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233
(参照 2022-06-02)
[注2] 厚生労働省.「HACCP(ハサップ)」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html
(参照 2022-06-02)
[注3] 厚生労働省.「食品製造におけるHACCP入門のための手引書[容器包装詰加圧加熱殺菌食品編]」.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000098994.pdf
(参照 2022-06-02)
[注4] 厚生労働省.「HACCPの普及・導入支援のための実態調査結果」.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000093104.pdf
(参照 2022-06-02)
[注5] 日本食品衛生協会.「HACCP(HACCPの各国の導入状況)」.
http://www.n-shokuei.jp/eisei/haccp_sec02.html
(参照 2022-06-02)